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2022.06.02
「大人のがちゃぽん。」展を終えて
たくさんの方々にご来廊いただき、心より感謝いたします。
ありがとうございました。
今回の個展では、倉富喜美代さんの更なる作家としての跳躍を感じました。
刺繍といえば、平面の世界。
しかし今回倉富喜美代さんは、その平面の世界を超えて、立体作品を数多く発表しました。
それは作家として、ギリギリまで自らを追い込み、苦しみ、その結果としてようやく見えた世界であったことと思います。
今回の展示では、その立体作品がハンドメイドの美しくエレガントな「がちゃぽんボックス」から出てくるという仕掛けです。
そのために平面では使わない素材、例えば厚紙、金属や紙粘土のようなものを使ったり、ワイヤーの入った糸を使ったりと、今までの刺繍作品制作とは全く異なるプロセスからスタートし、そして最終的に作品として完成させました。
ボックスを試行錯誤しながら作った後で、最初に作ってしまったことで中に入る立体作品のサイズを限定してしまったことなど、後から気づいた想定外のことがたくさんあったそうです。
しかしそれは、限定されたサイズ感からどうやってスケール感を引き出すのかを考えるヒントにもなりました。
ワイヤー入りの素材を使うことで、箱から出した後に成形をし、立体作品のスケールを出すことを発見したのです。
倉富作品において、「色合わせは?」「その発想はどこからくるのか?」という問いに、作家は答えることはできません。
厳密なルールもマニュアルも存在していないからです。
作品によっては下絵も描かず、いきなり刺繍をかけ始めるのだと言います。
使う色もあらかじめ決めているのではないそうです。
作家の才能とはなんでしょうか?
自分の心の中にだけある物語を、自らの手で形に落とし込めること。それを才能と呼ぶのではないかと思います。
才能は語りません。
結果だけで人々に語りかけます。
「どうやって?」という問いには、才能持つ人間は答えられません。
なぜならマニュアルもルールもない世界に自らの心を遊ばせているからです。
絲作家・倉富喜美代さんにとっての刺繍は、彼女の持つスキルの一つ。
今後の絲作家・倉富喜美代さんの作品もとても楽しみです。
才能が開花する現場に、そして作家の成長の瞬間に立ち会えた幸せを噛み締めています。
2022.05.26
[Event Report] KIMIYO WORKS 「大人のがちゃぽん。」展―幸せの余韻
それらは形に残らない芸術ですが、幸せの余韻が感じられ、思いがけない時にその記憶が蘇ってきたりします。
現在開催中のKIMIYO WORKS個展「大人のがちゃぽん。」をご覧になって、「良い芝居を見た後のように、気持ちに長く残る幸わせを感じました。」とおっしゃってくださったお客様がいらっしゃいました。
「大人のがちゃぽん。」とは夢と希望の詰まった大人のための宝箱です。
宝物が一つ一つエレガントな筒状のケースに入って、それが「大人のための」がちゃぽんとなりました。
昨年の個展は平面作品がほとんどでしたが、今回は立体作品がほぼ全てを占めます。
平面は、軸装作家にあつらえてもらった掛け軸の刺繍作品、そしてアンティークの涎掛けに楽しい刺繍が施された作品の2点があるのみです。
昨年とはガラリと趣向を変えた展示となっています。
今回の作品構成は下記の通りです。
「大人のがちゃぽん。」構成作品と制作の流れ
1)仮面人形編
→作家コメント:展示にあたって、真面目に作り始めた作品。10体を作るというチャレンジをした。
2)シューズ編
→作家コメント:昨年の展示でシューズの形を成形するところまでは制作終了していたが、今回、がちゃぽんボックスにシューズが入ることがわかって、俄然やる気になって絲仕事を施し、形にすることができた作品。
3)操り人形編
→作家コメント:前から一度作ってみたかったアイテムだったが、今回の展示で、チャレンジすることにした作品。
物語がたくさん詰まった面白い作品ができた。パーツが多く、組み立てるまでに大変だった
4)球根シリーズ編
→作家コメント:個展タイトルに沿ったものができ始める。
ミニチュアの銅のお玉を逆に差し込んだ作品が出来上がった時に、「これだ!すごいものができた」という達成感を持てた。
5)豚と羊編
→ 作家コメント:個展タイトルにピッタリ沿ったものが自分でも腹落ちして制作できた作品
これができたことで、「大人のがちゃぽん」が自分の中で完成した
6)新橋のサラリーマンうさぎ編
→展示最後の遊び感覚で作った抜け感のある作品
作っている時に、とても楽しく制作できた。物語も自然に出てきた
番外編
7)アンティークの紙箱にピッタリ収まったフィンガービスケットピンブローチ
→作家コメント: 今までのアクセサリーを作ってきた流れに沿って進化させた作品
テーマはチープでポップ。
それが箱にキュッと収まっている楽しさ。
8)掛け軸 BONSAI
→作家コメント: テーマ「シノワズリー」で軸装家の方と意見の一致を見て嬉しかった。信頼しておまかせし、素晴らしい出来上がりに大変嬉しかった。
この仮面人形から最後、新橋のサラリーマンうさぎ(なぜ新橋なのか?会場でお確かめください。)で終わるこの展示は、まるでバレーの舞台のようです。
音楽に沿って、作品たちが奏でる踊りやそしておしゃべりの数々。
是非会場でこの小さな作品の声に耳を澄ませてください。
そして皆様の幸せの余韻が少しでも長く続きますように。。。
皆様のご来廊をお待ちしております。(展示は5月31日までです。)
2022.04.27
[Event report] スティーブ・ハリソンのうつわと楽しむチーズの会 紅茶とチーズのペアリング
コロナ禍においても定期的にBon Fromage主宰の河西先生と打ち合わせをしながら、イベント再開の時期に関する相談をしておりました。
3月に入り、オミクロンも落ち着いてきて規制が撤廃されたので、感染対策をしながら再開させていただくことにしました。
人数はなるべく少なめの4名にし、その分イベント回数を増やすことに。
おかげさまで、もともと来てくださっていた方々が復活してくださり、後はSNSでも来て下さる方々がいらしたので、平和裏にそして和やかに開催することができました。
改めましてご来廊の皆様に感謝申し上げます。
さて、コロナ禍においては、緊急事態宣言や、それに続く蔓延防止対策も取られたため飲食店のあり方も大いに変わってしまいましたし、今年はウクライナ〜ロシア問題が勃発し、それにより海外品の流通スケジュールが大きな打撃を受けました。
現状を鑑みて「家で楽しく美味しいチーズをいただくこと」にフォーカスし、その含むタンニンが、とてもチーズと相性の良い紅茶をペアリングすることをテーマとしました。方向性としては、全く新しい試みです。
チーズプレートの中身も流通動向が日々変わるということにより、1週目と2週目の内容が若干変化しています。
紅茶は1杯目はダージリンのファーストフラッシュ(SINGBULLI農園)
マスカットの香りと葉の若々しい香りを感じられて、チーズにフルーツを添えたような、互いを引き立てるハーモニーが楽しめます。
二杯目の紅茶はヴィンテージウヴァ2019 (GREEN FIELD 農園)
トーマス・リプトンがウヴァの土地を開墾し、生産者から茶葉を購入しその礎を築いたということで、とても馴染みのある爽やかな香り豊かな紅茶。
ダージリンとは異なり、渋み濃い水色が特色です。
今回使用したスティーブの茶器
紅茶なので、その色がわかるように白磁のものを使用しました。
◎ 4/16,4/17のチーズ
◆ チョコロット(英チーズ) CHOCOLOT COOMBE CASTLE社
◆ スティッキートフィー(英チーズ) STICKY TOFFEE COOMBE CASTLE社
◆ ル・ルレ・クランベリー(仏チーズ)LE ROULE CRANBERRIES RIAN社
◆ ファンブリヤーオレンジリキュール(仏チーズ) FIN BRIARD A LA RIQUEUR D’ORANGE ROUZAIRE社
◆ ミモレットジュンヌ (仏チーズ)MIMOLETTE JUENE
◆ ケソデムルシアアルヴィノ(スペインチーズ)QUESO DE MURCIA AL VINO 山羊乳
◎ 4/23,4/24のチーズ
◆ チョコロット(英チーズ) CHOCOLOT COOMBE CASTLE社
◆ スティッキートフィー(英チーズ)STICKY TOFFEE COOMBE CASTLE社
◆ ホワイトスティルトン マンゴー&ジンジャー(英チーズ) WHITE STILTON MANGO&GINGER
◆ カレ・ド・ブルターニュ(仏チーズ)CARRE DE BRETAGNE
◆ コンテ8ヶ月以上熟成タイプ (仏チーズ)COMTE
◆ ミモレットジュンヌ (仏チーズ)MIMOLETTE JUENE
◆ ケソデムルシアアルヴィノ(スペインチーズ)QUESO DE MURCIA AL VINO 山羊乳
◆ ブルーチーズ(日チーズ 長野軽井沢)アトリエ・ド・フロマージュ
今回のチーズと紅茶のペアリングでは、チーズの塩味、うまみがタンニンをやわらげたり、ひきたてたりすることを実感しました。
紅茶のタンニンが脂肪分を流してくれる役割も果たします。
食べ合わせに関するヒント
香りが強いものをマスクするには
●橋渡しをしてくれるような組み合わせ:
例)カレ・ド・ブルターニュ+黒胡椒(トリプリングー橋渡し)
●コントラスをつける
例)青カビ+デーツ(コントラスト)
などがあります。
今回もとても楽しく勉強になる「チーズの会」でした。
今回の学びとともに、チーズを楽しんで紅茶とともに召し上がってみてください。 Bon Fromageの河西先生、ありがとうございました。
2022.01.13
2022 心に残る言葉
皆様、今年もよろしくお願い致します。
心に残った言葉
●少数の人々は、お互いに知らなくとも美術品を媒介に心を許し合っている
ー 白洲正子「なんでもないもの」
●アートとは眼には見ることのできない精神を物質化するための技術
ー 杉本博司「アートの起源」
● わびさびとは 不完全性
雅とは 優雅さ
渋さとは 繊細さ
粋とは 独創性
幽玄とは 神秘性
芸道とは 鍛錬と道徳
ー 詠み人知らず
●日本文化のみなもとは見立てと借景である。
見立ては、オリジナルをそのまま自国文化に取り込む
借景は空間を借り、その内部に日本を作る
ー 出典失念
●昔はあったのに今はなくなったものは落着きであり
昔はなかったが今はあるものは便利である。
昔はあったのに今はなくなってしまったものは幸福であり
昔はなかったが今はあるものは快楽である。
幸福というのは落着きのことであり
快楽というのは便利のことであって
快楽が増大すればするほど幸福は失われ、
便利が増大すればするほど落着きが失われる
ー 福田恆存「消費ブームを論ず」
2021.12.31
年末年始の読書リスト
コロナ禍で右往左往しているうちにあっという間に二年ですね。
早いものです。
雑用はあまたにあれど、年末年始は心静かに本の世界にこもりたいなと思っております。
心のざわめきを沈め、平穏を取り戻すことこそ、良き新年を迎えられる気がしておりますゆえ。
今年の年末年始の読書リスト。
●アガサ・クリスティ
なんと驚くべきことに何十年かぶりにアガサ・クリスティを再読しています。
今回ロンドン帰国後は施設隔離が決定していたので、暇つぶしに読もうと思って、ロンドンの自宅からひょいと選んで適当に持ってきたのがきっかけ。
アガサ・クリスティは再婚相手が考古発掘学者だったこともありメソポタミアや、エジプトを舞台にした作品をいくつか書いています。
もちろん今回「線とかたち」展を開催したこともあり、まずは「メソポタミヤの殺人」を持ち帰り読み始めました。
テンポがよく、パズルを解くような展開の面白さ。
なおかつポアロのような魅力的なレギュラーメンバーも出てきますし、なんといってもメソポタミヤ(現イラク、テル・ヤリミア遺跡)が舞台です。
読みすすめているうちに、クリスティを読む楽しさのとりこになってしまいます。
完全に「浮世を忘れてしまえること」もクリスティ文学の魅力の一つ。 舞台は遠き場所、そしてそこに起こる殺人事件なんですから、設定は完璧です。
「メソポタミヤの殺人」の解説で、大阪大教授 春日直樹氏がこう言及されています。
「(中略)大国のエゴイズムへの憤り、その渦中にあえて彼女(クリスティ)の一冊を開いてみるとよい。
平静な自分、ふだんの自分がきっと戻ってくる。
それが現代にクリスティをミステリイとして読むことの意味である」
心底同感です。
「ナイルに死す」これは舞台がエジプト。
前書きに、クリスティ自身がもうこれ以上ないほどの「クリスティを読む理由」を書いてくれていますので、引用します。()内もクリスティ自身の言葉です。
「探偵小説は逃避文学かもしれませんが(それの何がいけないのでしょう!)読者は太陽が眩しく輝く空と、青い川水と、犯罪を、安楽椅子にすわったまま楽しむことができるのです。」
*「ナイルに死す」は、なんと映画化され、来年の2月に公開です。
●杉本博司春日心霊の旅関連書籍
杉本博司のプロジェクトをいつも興味深くチェックしています。
わたしにとっての杉本博司は、導いてくれる師匠(勝手に)であり、永遠の私のロールモデルでもあります。
杉本博司のモノに対する思考が大変興味深く、それについての彼の表現活動が、まるで彼の脳内を疑似体験できるかのように思えます。。
杉本博司のたずさわる展覧会を見に行き、図録を購入して追体験をすることで、その疑似体験感は増幅します。
2020,2021年、コロナ禍で世界は止まってしまいましたが、その中、杉本博司は自身の遺言である「江の浦測候所」がいかにして作られたのかを一冊の本にまとめてくれました。
2022年、3月にその江之浦測候所に春日神の分霊が奉祀されるというではありませんか。
杉本博司は`平安原理主義者`だそうなので、「平安の正倉院」と呼ばれている春日大社に注目したのは当然と言えるのかもしれません。
しかもこの奉祀を記念して神奈川県立金沢文庫で特別展が開催されるのです。
これは来年一番目の楽しみになりました。
ということで関連書籍を早速購入しました。
以前、東博で開催された「春日大社 千年の至宝」図録とともに、展示に行く前に色々勉強しようと思います。
●「鴨川ランナー」グレゴリー・ケズナジャット
本来なら杉本博司で打ち止めにしようと思っていたのですが、このアメリカ人の作品である「鴨川ランナー」がとても良いので紹介します。
これは中編二作品からなる一冊で、2019年に創設された京都文学賞の「海外部門(外国人が日本語で書いた小説)」、そして「一般部門」の二部門で最優秀賞に選ばれました。
「鴨川ランナー」では、日本語に興味を持ち高校大学と勉強をしたアメリカ人が、地方の中学校の英語教師として来日し、そこで味わう孤独や体験、京都の光景などが、二人称「きみ」を主語として淡々と語られていきます。
ある意味、よくあるプロットではあるのですが、主人公である「きみ」が、「お守り」が「アミュレット」と言う英単語に置き換わられた途端何かが失われてしまったと感じるエピソードなど、海外経験をしたすべての人に共通の経験が語られます。
しかし、読了後に私は思ったのです。
本の帯にあるようにこの違和感、孤独感などはすべての「あわい」(境界線)にある人に共通の感性ではないだろうか、と。
人間は、すべてある種の「あわい」に生きていると私は思っているので、そう考えるとこの「鴨川ランナー」が包括している世界観は意外とグローバルなのかもしれないとも思いました。
すぐ読み終わってはしまうのですが、心に残り、折りに触れ再読したい作品だと思いました。
ということで、皆様も楽しい年末年始の読書を!
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