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2024.04.07

連載 Artbook「STEVE HARRISON」出版への歩み Chapter 4 ふたつの茶会

連載 Artbook「STEVE HARRISON」出版への歩み Chapter 4 ふたつの茶会

Artbook「STEVE HARRISON」出版への歩み


Chapter 4 ふたつの茶会


帰国後の2年間に亘る、西荻窪で開催したスティーブの作品展示販売。

そしていよいよ2014年からは世田谷の現ギャラリー久我に場所を移し、予約制という新たな形で展示販売を続けることとした。杉並区を離れたことで、お客さまがいらっしゃるかどうか甚だ心もとなかったのだが、ありがたいことに予約を入れてくださる方々がいらっしゃり、なんとか順調に進み出すことができた。


2014年、スティーブの再来日。

ちょうど、彼が我が家に滞在していただいたこともあり、お茶会を開催しようと思いたつ。

とても私的かつカジュアルなお茶会で、参加者は全部で7名ほど。場所は、我が家のプライベートスペースを使う。スティーブを入れて8名のお茶会である。

お茶会はスコーンや、何種類かのケーキを用意し、参加者にはそれぞれお気に入りのスティーブマグを持参していただくこととした。

スティーブがお茶を淹れてくれて(マリアージュフレール)、お茶をいただきながら歓談。その間スティーブにものづくりへの思いを聞く人があり、それにステイーブが真剣に回答する。和やかな中にも、真摯な想いが詰まった素敵な時間となった。

お茶会は盛況のうちに無事終了し、参加してくださった方々は皆さんとても喜んでくださった。


●お茶を入れるスティーブ



●お茶会の様子


イギリス風のお茶会を開催したのだから、今度は日本のお茶会も開催してみたくなってしまった。

そこには用意すべきしつらえがいくつか必要になってくる。

まずは軸と花である。

場所はギャラリー久我。

となると、全ては見立てで用意しなければならない。ギャラリー久我は和室ではないから、軸も色紙用の、サイズも小振のものを用意してみた。

いつ開催できるかはわからないが、その時のためにスティーブに墨で式紙に文字を書いてもらうことにした。

我が家滞在最後の晩に、色紙を書いてもらった。もちろんテーマとする「塩」だ。

おそらくスティーブにとっても本格的な書道は初体験だったに違いない。しばらく練習をして、そこから10枚ほどの色紙に「塩」と書いてもらった。それらを大切に茶会まで保存することとした。後に、まさかこの色紙を本に使うことになるとは、この時の私もスティーブも全く想像はしていない。


●書に挑戦するスティーブ


茶会は、2014年、12月7日に開催の運びとなった。

亭主は、私の友人である黒田宗雪さん。ちょうど裏千家の茶道師の資格を取ったタイミングで茶会のお願いをしたらご快諾いただけた。

基本、立札の見立ての茶会である。(*立礼ー茶道で椅子に腰掛けて行う手前。見立てー本来茶の湯の道具でなかったものを茶の湯の道具として見立てて茶の湯の世界に取り込む工夫。)

軸はスティーブが書いてくれた「塩」の色紙を使用。

花は、ステイーブのキャンドルホルダーを花器に見立て、そこに12月のエッセンスを取り入れたリースのような感じの花を、Nobilis主宰の白川さんに作っていただいた。



スティーブがStill Lifeで制作した古いオークの杢素材を使ったトレーを使って、盆手前でお茶を点ててもらうことにする。

メインの茶碗は、ステイーブがロンドンから持ってきてくれたストーンウェアの茶碗。

銘を時雨と名づけたものを使い、替茶碗を4椀使用。


●盆手前のしつらえ


立札とはいえ、スティーブ茶会として正式に会記も作ることとしたので、お客さまは茶会経験者を数名お呼びすることとした。

私も半東として入り、亭主の手伝いをする。

スティーブ茶会は、前回のイギリス風の茶会とはまた異なり、和やかな中にピリッと張り詰めた心地よい緊張感が漂っていた。


●記念の会記


この、世界観が異なるふたつの茶会を経験したことが、のちの本作りの中に生きてくるのだ、と今でこそ思う。当時はスティーブの持つうつわの可能性を自分の中で体感したいという気持ちが大きかった。

色々なシーンで使うことで、スティーブのうつわが持つ寛容性を経験したかったのだと思う。


こうして全ての体験は、一歩一歩知らないうちにスティーブの本作りへの布石となっていったのだ。