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2022.11.08
Gallery Kuga 10周年記念企画「Steve Harrison x KINTSUGI」展を終えて
展示期間中は多くの方々、赤平先生の生徒さん、スティーブ作品ファンの方々にご来廊いただき、本当に感謝しております。
改めましてありがとうございました。
また拙ギャラリー10周年にあたりまして、過分のお心遣いを頂戴した方々へも、合わせて御礼申し上げます。
思えば、今回お世話になった赤平先生の工房にスティーブを連れて行ったのは2回、2012年と2014年のことでした。
2012年は私がイギリスから日本に戻ってきた年ですが、その年の11月ごろだったでしょうか、スティーブが来日し、赤平先生の工房で金継ぎのプロセスを見せていただきました。
この時、初めてスティーブは金継ぎがどのような作業を経ているのかを間近で見せて頂き、そのプロセスに魅了されてしまったようです。
イギリスでは、ティーポットの注ぎ口が欠けてしまった場合は銀の口を嵌め込んで欠けを隠す手法はあったものの、漆で継いで直すなどという方法を知る人もほとんどおりませんでした。
しかも、スティーブにとって、継いだ場所を隠すのではなく「見せてしまう」ことは、真逆の発想であったのでしょう。
金継ぎの手法を知った後、スティーブは金継ぎに必要な道具や漆一式を購入し、自分でもこの方法を取り入れることにしたのでした。
そして2014年にも再びスティーブは赤平先生の工房を再訪。
この時は漆をボードに塗る作業をお願いしておりました。(2015年のロンドンで開催されたカップボード展のため)
そしてスティーブが赤平工房を訪れてから8年後の2022年、ギャラリー久我で、赤平先生とスティーブの出会いがもたらした「Steve Harrison x KINTSUGI」展を開催することができました。
以前から10周年の記念企画展をするのであれば、ギャラリーを開くきっかけとなったスティーブのうつわはメインでフューチャーしたいと思っておりました。
そしてスティーブ作品を扱う上で、私の中で作品の販売とセットになっている、メインテナンスのご案内である金継ぎも欠かせません。
この二つを組み合わせた展示こそ、ギャラリー久我の10周年記念にふさわしいのではなかろうか、と思いついたのが2022年に切り替わった頃でした。
まず赤平先生に、お話ししたところご快諾いただき、そこから今度はスティーブの金継ぎ作品をお持ちのお客様に作品のお貸し出しをお願いしに行き、DMや、記念の物販物の制作にも着手し、とんとん拍子に準備が進みました。
会期中は赤平先生が全日在廊してくださったことにより、色漆の調合のことなど新たに知ったことも多く、大変勉強になりました。
それに加えて、うつわの修理も受け付けたので、この機会に器をお持ちくださったお客様も沢山いらっしゃいましたので、皆様にも良い機会を設けられたのではないかと思っております。
色漆の調合の話に戻りますが、赤平先生曰く、和の土もののうつわにはなんと言っても金直しがぴったりなのですが、スティーブの塩釉のうつわには、その地の色を生かした色漆で直すのが邪魔することもないので良いのではないかとのこと。
しかし、塩釉で色がグラデーションになっているところに、合った色漆で直しをかけるのは至難の業ではないかと思うのです。
そして直す方のセンスにも大いに関わってくる難しさがあると思いました。
また、今回気づいたことが、マグの小さなチップ(欠け)。
これがあるとマグとしては使えません。(唇が当たって怪我をする可能性もあり)
それで直していただくのですが、マグの飲み口を手で触るとどこが直してあるのか全くわからないくらいスムーズです。
スティーブの作品は美しく、そして「用の美=道具」でもあるので、その「道具」としての機能性が再現されるというのもまた素晴らしいことだと思いました。
かくして、漆の深い世界観にも触れ、それがスティーブのうつわとどのように調和していくのかを全43点の作品の中で見ることができたというのは、私の中でも実に感慨深い経験となりました。
今回は動画作品も記録として残すために考えており、現在制作中ですのでまた完成の折にはご案内させていただこうと思っております。
最後に、Steve Harrison氏、赤平一枝先生、作品をお貸出しくださったお客様、皆様に再度感謝申し上げます。
ありがとうございました。
出展作品リスト
制作年 / アイテム/ 色 / 素材
1) 1996 ボウル 青 せっ器(ストーンウェア)
2) 1996 ボウル 青 せっ器(ストーンウェア)
3) 2009 マグ 青 せっ器(ストーンウェア)
4) 2009 マグ 緑 せっ器(ストーンウェア)
5) 2009 マグ 茶 せっ器(ストーンウェア)
6) 2009 マグ 白 磁器(ポーセリン)
7) 2009 クリーマー 白 磁器(ポーセリン)
8) 2010 ジュリアマグ 青 せっ器(ストーンウェア)
9) 2010 ティーポット(中) 緑 せっ器(ストーンウェア)
10) 2010 ティーポット(大) 青 せっ器(ストーンウェア)
11) 2010 ティーポット(中) 空色 磁器(ポーセリン)
12) 2009 ティーポット(中) 青 せっ器(ストーンウェア)
13) 2010 ティーポット(小) 濃紺 せっ器+磁器
14) 2010 マグ 空色 磁器(ポーセリン)
15) 2010 ジャグ(大) 濃紺 せっ器(ストーンウェア)
16) 2010 盃 黄 磁器(ポーセリン)
17) 2010 シュガーボウル 濃紺 せっ器(ストーンウェア)
18) 2011 ビーカー 紺 せっ器(ストーンウェア)
19) 2011 ビーカー ベージュ せっ器(ストーンウェア)
20) 2011 ティーポット(中) 青緑 せっ器(ストーンウェア)
21) 2012 花器 白+黄 磁器(ポーセリン)
22) 2012 マグ 濃緑 せっ器(ストーンウェア)
23) 2012 マグ 青緑 せっ器(ストーンウェア)
24) 2012 マグ 白+緑 磁器+せっ器
25) 2014 マグ 白+青 磁器(ポーセリン)
26) 2014 ボウル 黒+白 磁器(ポーセリン)
27) 2014 皿(大) 薄青 せっ器(ストーンウェア)
28) 2014 ティーカディ(茶葉入れ) 青 せっ器(ストーンウェア)
29) 2014 ジャグ 藍 せっ器(ストーンウェア)
30) 2014 マグ 青 磁器(ポーセリン)
31) 2015 マグ 青 せっ器(ストーンウェア)
32) 2015 ティーポット(中) 青 せっ器(ストーンウェア)
33) 2016 ティーポット(中) 青 せっ器(ストーンウェア)
34) 2016 ティーポット(中) 青+黄 せっ器+磁器
35) 2016 マグ 薄茶 せっ器(ストーンウェア)
36) 2015 ビーカー 白 磁器(ポーセリン)
37) 2017 マグ 茶 せっ器(ストーンウェア)
38) 2017 ジュリアマグ 黄 磁器(ポーセリン)
39) 2017 手つきボウル 茶 せっ器(ストーンウェア)
40) 2017 ジャグ(中) 白+青 磁器+せっ器
41) 2017 蓋付き花器 青緑 せっ器(ストーンウェア)
42) 2018 マグ 白 磁器(ポーセリン)
43) 2020 マグ 緑 せっ器(ストーンウェア)
2022.10.13
ギャラリー久我10周年記念企画 Steve Harrison x KINTSUGI展
今回初めて、展示にまつわるポストカード7枚セットの販売、また金継ぎ作品にインスピレーションを受けたStill Life作品をパネルにしたものを販売いたします。(by Wandel)
こちらのパネルは受注販売となります。
皆様のご来廊をお待ち申し上げております。
2022.10.06
David Phillips 「Postcards not sent 送られなかったポストカード」展
小さなポストカードサイズでありながら、じっと見ていると景色の中に自分が入り込んでしまいそうな気がしてきます。
現在、ギャラリー久我で開催中のDavid Phillipsの日本での初個展、「Postcards not sent 送られなかったポストカード」。
連日ご来廊下さったお客様が作品を通じ、記憶の中の旅をして頂いている様子が見受けられることをとても嬉しく思っております。
Davidさんはプレビューと初日・二日目とギャラリーに在廊してくださり、その際作品制作にまつわるお話をいろいろ伺いました。
●ウェールズへの郷愁
Davidさんの作品に感じられるモイスチャー、みずみずしさというか、ある種のしっとりと水を感じる湿度感、これはどこからくるのか。
ご自身が、天気が1日のうちで大きく移り変わるウェールズ地方で少年期を過ごしたことが、作品の中に感じられる湿度感に大いに関わっているとのこと。
一つの例として、お話してくれたのが、昨年アーティストインレジデンスとして過ごされたフランス・ブルゴーニュ地方での出来事でした。
そこで過ごされたDavidさんは、小さなスタジオを買いたいと思うほどその環境が気に入ってしまったそうです。
しかし、最後地元の不動産屋にこの辺りの天気を聞いたところ「毎日ピカピカの快晴続きですよ」と回答があったために購入を断念したというのです。
天気にバリエーションのあるウェールズで育ったDavidさんにとっては、毎日快晴ではニュアンスがなさすぎたのでした。
●景色と人造物との関わり
作品における視点は、俯瞰です。
まるで、鳥が空から景色を見るような俯瞰の視点で見た景色が広がっています。
遠くも見渡せるような、遠近感。
そこに描かれたワイアーのような縦線だったり、横線だったり、囲まれている線だったりするもの、これは全て人造物を表しているのだそうです。
私たちが見ている「景色」で自然そのものであるものはない。どこかしらに人間の手が入ったものを私たちは「景色」として認識しています。
作品の中に人造物を入れることにより、「自然と人間の共生=景色と人造物の対比」の関連性に改めて思いを馳せる必要があるというメッセージがあるのです。
●David Phillipsの作品の魅力
Davidさんは、グラフィックデザイナーとしてロゴ制作をしたり、紋章を研究されたり、建築事務所で仕事をしていたこともあったり、美大で教鞭をとったり、幅広く活躍をしつつ、2018年に絵画に回帰されました。
素材としては、カンバスではなくMDFという建材に使用されることもある木材チップを固めたボードを使い、アクリル絵の具で描いています。
小さなサイズと言え、作品は一度に仕上げてしまうのではなく時間をかけて制作しています。
時には一ヶ月置いて再び手を入れることもあるとのこと。
時間を置いて、サンドペーパーで色をこそげ落としまた新たに色付けをすることが多いそうです。
Davidさんの絵の魅力は、高い技術力がありながら、表現はできる限り削ぎ落とし、最終的に残ったものに自分の心象風景を表現しているオリジナリティにあると言えましょう。
高い技術があるのですが、それが前面に出てしまえば見ている人が息が詰まってしまいます。
Davidさんの絵は見ている人を自然とリラックスさせ、その景色の中に呼び込みます。
コンパクトなポストカードサイズであり表現もミニマムでありながら、その美しい色使いや、感じられる深みや広がりに魅了されます。
まさにデスクの引き出しの中でずっと眠っている、過去に旅した際に買って「送られなかった」ポストカードそのもののようです。
ポストカードサイズの作品が整然と並んだ会場で、作品を一点一点見ていくと、その場でしか味わえない気持ちの高揚感が味わえます。
作品は、近くで見た時と離れてみた時とで、また表情が変わります。
あるお客様にDavidさんの作品を見た後で、絵手紙を書いてみたくなったとお話ししてくださいました。
Postcards not sentは、見てくださる皆さんへのパーソナルな招待状、見てくださった方々が、それぞれ良い刺激を受けてくださるといいなと思っております。
David Phillips個展は10月10日まで開催しています。
お時間許せば、ぜひお出かけください。
この夏、Davidさんのアトリエを訪問した際の画像です。
アトリエもとても魅力的でした。
2022.10.06
David Phillips 「送られなかったポストカード Postcards not sent 」展開催中
皆様のご来廊をお待ちしております。
2022.06.02
「大人のがちゃぽん。」展を終えて
たくさんの方々にご来廊いただき、心より感謝いたします。
ありがとうございました。
今回の個展では、倉富喜美代さんの更なる作家としての跳躍を感じました。
刺繍といえば、平面の世界。
しかし今回倉富喜美代さんは、その平面の世界を超えて、立体作品を数多く発表しました。
それは作家として、ギリギリまで自らを追い込み、苦しみ、その結果としてようやく見えた世界であったことと思います。
今回の展示では、その立体作品がハンドメイドの美しくエレガントな「がちゃぽんボックス」から出てくるという仕掛けです。
そのために平面では使わない素材、例えば厚紙、金属や紙粘土のようなものを使ったり、ワイヤーの入った糸を使ったりと、今までの刺繍作品制作とは全く異なるプロセスからスタートし、そして最終的に作品として完成させました。
ボックスを試行錯誤しながら作った後で、最初に作ってしまったことで中に入る立体作品のサイズを限定してしまったことなど、後から気づいた想定外のことがたくさんあったそうです。
しかしそれは、限定されたサイズ感からどうやってスケール感を引き出すのかを考えるヒントにもなりました。
ワイヤー入りの素材を使うことで、箱から出した後に成形をし、立体作品のスケールを出すことを発見したのです。
倉富作品において、「色合わせは?」「その発想はどこからくるのか?」という問いに、作家は答えることはできません。
厳密なルールもマニュアルも存在していないからです。
作品によっては下絵も描かず、いきなり刺繍をかけ始めるのだと言います。
使う色もあらかじめ決めているのではないそうです。
作家の才能とはなんでしょうか?
自分の心の中にだけある物語を、自らの手で形に落とし込めること。それを才能と呼ぶのではないかと思います。
才能は語りません。
結果だけで人々に語りかけます。
「どうやって?」という問いには、才能持つ人間は答えられません。
なぜならマニュアルもルールもない世界に自らの心を遊ばせているからです。
絲作家・倉富喜美代さんにとっての刺繍は、彼女の持つスキルの一つ。
今後の絲作家・倉富喜美代さんの作品もとても楽しみです。
才能が開花する現場に、そして作家の成長の瞬間に立ち会えた幸せを噛み締めています。
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