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ブログ

2021.12.27

「線とかたち」を見る

2021年もあと数日で終わろうとしています。

皆様にとっては、今年はどんな年でしたか?

奇妙で過ぎ去るのが早かった2021年。

コロナ禍は今年も続きました。

12月に入って、また新規株が世間を騒がせています。

世界はこのままwith またはafterコロナの時代を迎えるのでしょうか?


今年二回目の企画展「線とかたち」展終了後、わたしなりに感じたことをブログに書いておこうと思っていたのに、気づけば1ヶ月以上が立ってしまいました。

展示後、あまり時間を置かぬまま二年ぶりに渡英。

帰国後は6日間の施設隔離も含めた2週間の隔離期間があり、ようやっと隔離期間を終えたら12月も半ばを過ぎておりました。

ということで、タイムラグはあるものの、わたしなりの「線とかたち」展に関する感想をまとめておきたいと思います。


今回、渡英した際、大英博物館をじっくり見てきました。

自分でも驚いたのが見え方に関する劇的な変化。

大英博物館の展示では、今回の「線とかたち」展に出品されていたものと同じような展示物にすうっと引き寄せられていきます。

簡単にいえば「追体験」

英語でいうと find-detectと言うらしいのです。

そうか、よく見るってことは、質の高い追体験ができて、しかもfind(発見)もあるのね、と思いました。




●アラバストロン

紀元前6−5世紀 キプロス


半透明のアラバスターという素材はギリシャでは採れない素材です。

ですからこの素材が採れるエジプトからキプロスへ輸出された可能性が高くなります。

エジプトで採れたアラバスターが輸出され、キプロスで加工されたか、またはエジプトですでにこの形に作られ、輸出されたかのいずれかということになります。

このような容器は香油や香料の保存や運搬に利用され、アラバスターの素材そのものの、「アラバストロン」と言う呼ばれ方をしました。

アラバストロンの所有はその持ち主が金銭的に高い地位にあったことを表明するものだったようです。

例えば遺体に香油を塗った後、あの世で使うための副葬品として、この高価な容器は中身ごと墓に納められたのだそう。

大英博物館では、アラバスター素材を持つことのできなかった人々のためにクレイ(粘土)で作られたアラバストロンも展示してありました。

アラバストロンには見せかけの把手がついていますが、これは単純に装飾のためなのでしょうか?

謎はつきません。




●新石器時代、石鏃 紀元前9000-5000年 モロッコ


新石器時代ですから、9000-5000年前です。

やじり、ですから矢の先に装着して用いる石器なのですが、この石鏃はモロッコから出土したもの。

しかも、きれいなものが集められているので、間違いなくコレクターが編集した石鏃セットのようです。

面白いことに、日本の同じ時代に同じ石鏃が生まれています。日本の場合は黒曜石が素材として使われていることが多いようです。

この石鏃セットには、古代の「線とかたち」を強く感じます。

9000年前だとすると、今から11000年前。

そんな古い人類の黎明期に作られた、実用の道具の中にある美しさ。

古代の「線とかたち」からみえてくる体感できる美しさがそこにあります。



素材も、宝石のような上質の石(コーネリアン、チャート)に緻密な加工が施されています。

*チャート 堆積岩の一種 緻密で硬い岩石





●帝政ローマ時代 純金の指輪 紀元1−2世紀


ようやく紀元後になりました。紀元1−2世紀の帝政ローマ時代の純金リングです。

この時代には24金というのは存在していなかったそうで、おそらく含有物が8%位入った22金くらいではなかろうかとのことです。

同じようなリングで3連にエジプト神イシス、ハルポクラテス、セラピスが刻まれたものが橋本コレクションで見ることができます。

*THE RINGS橋本コレクション 2014 国立西洋美術館 P118 NO 125


このリングに刻まれているのはイルカ。愛と平和の象徴です。

イルカがモチーフとして刻まれいているのは珍しいのだとか。

とても小さなリングですが、小指の第一と第二関節の間にピタッと収まります。

イルカはシール(印鑑)だったのかもしれません。

しかも女性のシールだったのかな?

このリングは面がいくつも作られていて、光が乱反射します。

シャープでエッジの効いた線がいくつも作られて、それがかたちとなっているので、まさに「線とかたち」を体現しているかのようなリングだなと思いました。

そしてそこにイルカ。

それほど緻密でなく、ゆるい絵付けですが、それがなんとなく現代とのつながりを感じさせてくれるようでもあります。




古代の「線」がつくった「かたち」。そこには古代の人々の生活にまつわる息遣いが感じられます。

古代の「かたち」、を通してこんなにも歴史が、色鮮やかにそして身近に感じられる経験は、実に貴重なものでした。

この得難い経験を、来年にもつないでいきたいと思います。

(私的な関連書籍がどっと増えそうな恐ろしい予感がします。。。)


最後に、出品者の毛涯達哉さんに心より感謝申し上げます。

ありがとうございました。