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2022.10.06

David Phillips 「Postcards not sent 送られなかったポストカード」展

どこかで見たような懐かしい景色。

小さなポストカードサイズでありながら、じっと見ていると景色の中に自分が入り込んでしまいそうな気がしてきます。

現在、ギャラリー久我で開催中のDavid Phillipsの日本での初個展、「Postcards not sent 送られなかったポストカード」。

連日ご来廊下さったお客様が作品を通じ、記憶の中の旅をして頂いている様子が見受けられることをとても嬉しく思っております。

Davidさんはプレビューと初日・二日目とギャラリーに在廊してくださり、その際作品制作にまつわるお話をいろいろ伺いました。


●ウェールズへの郷愁

Davidさんの作品に感じられるモイスチャー、みずみずしさというか、ある種のしっとりと水を感じる湿度感、これはどこからくるのか。

ご自身が、天気が1日のうちで大きく移り変わるウェールズ地方で少年期を過ごしたことが、作品の中に感じられる湿度感に大いに関わっているとのこと。

一つの例として、お話してくれたのが、昨年アーティストインレジデンスとして過ごされたフランス・ブルゴーニュ地方での出来事でした。

そこで過ごされたDavidさんは、小さなスタジオを買いたいと思うほどその環境が気に入ってしまったそうです。

しかし、最後地元の不動産屋にこの辺りの天気を聞いたところ「毎日ピカピカの快晴続きですよ」と回答があったために購入を断念したというのです。

天気にバリエーションのあるウェールズで育ったDavidさんにとっては、毎日快晴ではニュアンスがなさすぎたのでした。




●景色と人造物との関わり

作品における視点は、俯瞰です。

まるで、鳥が空から景色を見るような俯瞰の視点で見た景色が広がっています。

遠くも見渡せるような、遠近感。

そこに描かれたワイアーのような縦線だったり、横線だったり、囲まれている線だったりするもの、これは全て人造物を表しているのだそうです。

私たちが見ている「景色」で自然そのものであるものはない。どこかしらに人間の手が入ったものを私たちは「景色」として認識しています。

作品の中に人造物を入れることにより、「自然と人間の共生=景色と人造物の対比」の関連性に改めて思いを馳せる必要があるというメッセージがあるのです。




●David Phillipsの作品の魅力

Davidさんは、グラフィックデザイナーとしてロゴ制作をしたり、紋章を研究されたり、建築事務所で仕事をしていたこともあったり、美大で教鞭をとったり、幅広く活躍をしつつ、2018年に絵画に回帰されました。

素材としては、カンバスではなくMDFという建材に使用されることもある木材チップを固めたボードを使い、アクリル絵の具で描いています。

小さなサイズと言え、作品は一度に仕上げてしまうのではなく時間をかけて制作しています。

時には一ヶ月置いて再び手を入れることもあるとのこと。

時間を置いて、サンドペーパーで色をこそげ落としまた新たに色付けをすることが多いそうです。

Davidさんの絵の魅力は、高い技術力がありながら、表現はできる限り削ぎ落とし、最終的に残ったものに自分の心象風景を表現しているオリジナリティにあると言えましょう。

高い技術があるのですが、それが前面に出てしまえば見ている人が息が詰まってしまいます。

Davidさんの絵は見ている人を自然とリラックスさせ、その景色の中に呼び込みます。

コンパクトなポストカードサイズであり表現もミニマムでありながら、その美しい色使いや、感じられる深みや広がりに魅了されます。

まさにデスクの引き出しの中でずっと眠っている、過去に旅した際に買って「送られなかった」ポストカードそのもののようです。

ポストカードサイズの作品が整然と並んだ会場で、作品を一点一点見ていくと、その場でしか味わえない気持ちの高揚感が味わえます。

作品は、近くで見た時と離れてみた時とで、また表情が変わります。

あるお客様にDavidさんの作品を見た後で、絵手紙を書いてみたくなったとお話ししてくださいました。

Postcards not sentは、見てくださる皆さんへのパーソナルな招待状、見てくださった方々が、それぞれ良い刺激を受けてくださるといいなと思っております。


David Phillips個展は10月10日まで開催しています。

お時間許せば、ぜひお出かけください。


この夏、Davidさんのアトリエを訪問した際の画像です。

アトリエもとても魅力的でした。