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ブログ

2021.12.31

年末年始の読書リスト

あっという間に大晦日。

コロナ禍で右往左往しているうちにあっという間に二年ですね。

早いものです。

雑用はあまたにあれど、年末年始は心静かに本の世界にこもりたいなと思っております。

心のざわめきを沈め、平穏を取り戻すことこそ、良き新年を迎えられる気がしておりますゆえ。


今年の年末年始の読書リスト。


●アガサ・クリスティ
なんと驚くべきことに何十年かぶりにアガサ・クリスティを再読しています。

今回ロンドン帰国後は施設隔離が決定していたので、暇つぶしに読もうと思って、ロンドンの自宅からひょいと選んで適当に持ってきたのがきっかけ。

アガサ・クリスティは再婚相手が考古発掘学者だったこともありメソポタミアや、エジプトを舞台にした作品をいくつか書いています。

もちろん今回「線とかたち」展を開催したこともあり、まずは「メソポタミヤの殺人」を持ち帰り読み始めました。

テンポがよく、パズルを解くような展開の面白さ。

なおかつポアロのような魅力的なレギュラーメンバーも出てきますし、なんといってもメソポタミヤ(現イラク、テル・ヤリミア遺跡)が舞台です。

読みすすめているうちに、クリスティを読む楽しさのとりこになってしまいます。

完全に「浮世を忘れてしまえること」もクリスティ文学の魅力の一つ。 舞台は遠き場所、そしてそこに起こる殺人事件なんですから、設定は完璧です。

「メソポタミヤの殺人」の解説で、大阪大教授 春日直樹氏がこう言及されています。

「(中略)大国のエゴイズムへの憤り、その渦中にあえて彼女(クリスティ)の一冊を開いてみるとよい。

平静な自分、ふだんの自分がきっと戻ってくる。

それが現代にクリスティをミステリイとして読むことの意味である」

心底同感です。


「ナイルに死す」これは舞台がエジプト。

前書きに、クリスティ自身がもうこれ以上ないほどの「クリスティを読む理由」を書いてくれていますので、引用します。()内もクリスティ自身の言葉です。

「探偵小説は逃避文学かもしれませんが(それの何がいけないのでしょう!)読者は太陽が眩しく輝く空と、青い川水と、犯罪を、安楽椅子にすわったまま楽しむことができるのです。」



*「ナイルに死す」は、なんと映画化され、来年の2月に公開です。


●杉本博司春日心霊の旅関連書籍
杉本博司のプロジェクトをいつも興味深くチェックしています。
わたしにとっての杉本博司は、導いてくれる師匠(勝手に)であり、永遠の私のロールモデルでもあります。

杉本博司のモノに対する思考が大変興味深く、それについての彼の表現活動が、まるで彼の脳内を疑似体験できるかのように思えます。。

杉本博司のたずさわる展覧会を見に行き、図録を購入して追体験をすることで、その疑似体験感は増幅します。


2020,2021年、コロナ禍で世界は止まってしまいましたが、その中、杉本博司は自身の遺言である「江の浦測候所」がいかにして作られたのかを一冊の本にまとめてくれました。


2022年、3月にその江之浦測候所に春日神の分霊が奉祀されるというではありませんか。

杉本博司は`平安原理主義者`だそうなので、「平安の正倉院」と呼ばれている春日大社に注目したのは当然と言えるのかもしれません。

しかもこの奉祀を記念して神奈川県立金沢文庫で特別展が開催されるのです。

特別展 春日神霊の旅ー杉本博司 常陸から大和へー

これは来年一番目の楽しみになりました。

ということで関連書籍を早速購入しました。

以前、東博で開催された「春日大社 千年の至宝」図録とともに、展示に行く前に色々勉強しようと思います。





●「鴨川ランナー」グレゴリー・ケズナジャット


本来なら杉本博司で打ち止めにしようと思っていたのですが、このアメリカ人の作品である「鴨川ランナー」がとても良いので紹介します。

これは中編二作品からなる一冊で、2019年に創設された京都文学賞の「海外部門(外国人が日本語で書いた小説)」、そして「一般部門」の二部門で最優秀賞に選ばれました。

「鴨川ランナー」では、日本語に興味を持ち高校大学と勉強をしたアメリカ人が、地方の中学校の英語教師として来日し、そこで味わう孤独や体験、京都の光景などが、二人称「きみ」を主語として淡々と語られていきます。

ある意味、よくあるプロットではあるのですが、主人公である「きみ」が、「お守り」が「アミュレット」と言う英単語に置き換わられた途端何かが失われてしまったと感じるエピソードなど、海外経験をしたすべての人に共通の経験が語られます。

しかし、読了後に私は思ったのです。

本の帯にあるようにこの違和感、孤独感などはすべての「あわい」(境界線)にある人に共通の感性ではないだろうか、と。

人間は、すべてある種の「あわい」に生きていると私は思っているので、そう考えるとこの「鴨川ランナー」が包括している世界観は意外とグローバルなのかもしれないとも思いました。

すぐ読み終わってはしまうのですが、心に残り、折りに触れ再読したい作品だと思いました。



ということで、皆様も楽しい年末年始の読書を!

2021.12.28

ロンドン点描 Part2

今回初めてお邪魔したある有名陶芸家Jさんのスタジオ

南ロンドンのペッカムにあります。

創作インスピレーションの元になるのであろう興味深い自然物があちこちに。。

その後お茶を頂いたご自宅キッチンはクリエイティブに溢れていました。





今回大変お世話になったジャーナリストMさんのご自宅は、世界的に知られるガーデンデザイナーDan Pearsonさんの旧邸。

Brixtonは今回初めていったエリアでした。

Oxford circusから歩いていけるPACE GALLERY.

今回、こけらおとしは奈良美智の個展。

大きな作品がたくさんあり、見ごたえがありました。



ロンドン一背高のっぽビルのシャード

ロンドンアイがライティングされていてきれいです。

ロンドンの象徴、Big Benは只今修復中。 完了は来年の予定だそうです。

2週間強のロンドン滞在中は、長らく会えなかった友人たちや、作家たちにもあったり、新しい出会いがあったりかなり盛りだくさんではありましたが、思い切ってでかけてよかったと思っています。(隔離期間はあったものの)
今回の出会いをまたギャラリーでの活動につなげていけるよう、頑張っていきたいですね。

2021.12.28

ロンドン点描 Part1

2年ぶりのロンドン。

最後の海外渡航が2019年の奇しくも11月ロンドン行きでした。

11月半ば過ぎからのロンドンは、午後4時半にはもう真っ暗。

でも、街はクリスマスを控えてホリデーモードになり、イルミネーションの美しいシーズンを迎えます。

そんなわけで、今回のロンドンスケッチを画像とともに振り返ろうと思います。


上空から見たロンドン。懐かしいテムズ川。



ロンドン到着は水曜日。金曜には英陶芸家・Steve Harrison宅へ。二年ぶりの再会を喜び合い、お互いの近況を語り合ってきました。



土曜のポートベローマーケットで、旧知のアンティークディーラーと。新しいパピーちゃんと一緒でした。



家の近所のハムステッドヒース



街中のクリスマスイルミネーション

それぞれ趣向を凝らして個性的。






夕方のナショナルギャラリー

レオナルドの「岩窟の聖母」

神々しくてありがたい。。



華やかなデパートのディスプレー Liberty, F&M



私が大好きな本屋さん、FOYLESもクリスマス仕様でした。

Steve Harrisonの個展も開催したコヴェントガーデンにあるとてもおしゃれな文房具屋さん、Choosing Keepingのクリスマスディスプレーも素敵です。 今回スタッフのElaanorとも会えて話ができてよかった!

2021.12.27

「線とかたち」を見る

2021年もあと数日で終わろうとしています。

皆様にとっては、今年はどんな年でしたか?

奇妙で過ぎ去るのが早かった2021年。

コロナ禍は今年も続きました。

12月に入って、また新規株が世間を騒がせています。

世界はこのままwith またはafterコロナの時代を迎えるのでしょうか?


今年二回目の企画展「線とかたち」展終了後、わたしなりに感じたことをブログに書いておこうと思っていたのに、気づけば1ヶ月以上が立ってしまいました。

展示後、あまり時間を置かぬまま二年ぶりに渡英。

帰国後は6日間の施設隔離も含めた2週間の隔離期間があり、ようやっと隔離期間を終えたら12月も半ばを過ぎておりました。

ということで、タイムラグはあるものの、わたしなりの「線とかたち」展に関する感想をまとめておきたいと思います。


今回、渡英した際、大英博物館をじっくり見てきました。

自分でも驚いたのが見え方に関する劇的な変化。

大英博物館の展示では、今回の「線とかたち」展に出品されていたものと同じような展示物にすうっと引き寄せられていきます。

簡単にいえば「追体験」

英語でいうと find-detectと言うらしいのです。

そうか、よく見るってことは、質の高い追体験ができて、しかもfind(発見)もあるのね、と思いました。




●アラバストロン

紀元前6−5世紀 キプロス


半透明のアラバスターという素材はギリシャでは採れない素材です。

ですからこの素材が採れるエジプトからキプロスへ輸出された可能性が高くなります。

エジプトで採れたアラバスターが輸出され、キプロスで加工されたか、またはエジプトですでにこの形に作られ、輸出されたかのいずれかということになります。

このような容器は香油や香料の保存や運搬に利用され、アラバスターの素材そのものの、「アラバストロン」と言う呼ばれ方をしました。

アラバストロンの所有はその持ち主が金銭的に高い地位にあったことを表明するものだったようです。

例えば遺体に香油を塗った後、あの世で使うための副葬品として、この高価な容器は中身ごと墓に納められたのだそう。

大英博物館では、アラバスター素材を持つことのできなかった人々のためにクレイ(粘土)で作られたアラバストロンも展示してありました。

アラバストロンには見せかけの把手がついていますが、これは単純に装飾のためなのでしょうか?

謎はつきません。




●新石器時代、石鏃 紀元前9000-5000年 モロッコ


新石器時代ですから、9000-5000年前です。

やじり、ですから矢の先に装着して用いる石器なのですが、この石鏃はモロッコから出土したもの。

しかも、きれいなものが集められているので、間違いなくコレクターが編集した石鏃セットのようです。

面白いことに、日本の同じ時代に同じ石鏃が生まれています。日本の場合は黒曜石が素材として使われていることが多いようです。

この石鏃セットには、古代の「線とかたち」を強く感じます。

9000年前だとすると、今から11000年前。

そんな古い人類の黎明期に作られた、実用の道具の中にある美しさ。

古代の「線とかたち」からみえてくる体感できる美しさがそこにあります。



素材も、宝石のような上質の石(コーネリアン、チャート)に緻密な加工が施されています。

*チャート 堆積岩の一種 緻密で硬い岩石





●帝政ローマ時代 純金の指輪 紀元1−2世紀


ようやく紀元後になりました。紀元1−2世紀の帝政ローマ時代の純金リングです。

この時代には24金というのは存在していなかったそうで、おそらく含有物が8%位入った22金くらいではなかろうかとのことです。

同じようなリングで3連にエジプト神イシス、ハルポクラテス、セラピスが刻まれたものが橋本コレクションで見ることができます。

*THE RINGS橋本コレクション 2014 国立西洋美術館 P118 NO 125


このリングに刻まれているのはイルカ。愛と平和の象徴です。

イルカがモチーフとして刻まれいているのは珍しいのだとか。

とても小さなリングですが、小指の第一と第二関節の間にピタッと収まります。

イルカはシール(印鑑)だったのかもしれません。

しかも女性のシールだったのかな?

このリングは面がいくつも作られていて、光が乱反射します。

シャープでエッジの効いた線がいくつも作られて、それがかたちとなっているので、まさに「線とかたち」を体現しているかのようなリングだなと思いました。

そしてそこにイルカ。

それほど緻密でなく、ゆるい絵付けですが、それがなんとなく現代とのつながりを感じさせてくれるようでもあります。




古代の「線」がつくった「かたち」。そこには古代の人々の生活にまつわる息遣いが感じられます。

古代の「かたち」、を通してこんなにも歴史が、色鮮やかにそして身近に感じられる経験は、実に貴重なものでした。

この得難い経験を、来年にもつないでいきたいと思います。

(私的な関連書籍がどっと増えそうな恐ろしい予感がします。。。)


最後に、出品者の毛涯達哉さんに心より感謝申し上げます。

ありがとうございました。

2021.10.29

「線とかたち」の立役者

いよいよ企画展「線と形」のオープニングが迫ってきました。

設営もほぼ終えて、後は細かい調整が残るのみ。

出品物の各々の美しさもさることながら、ここで、その美しさを引き立てる影の立役者について記載しておこうと思います。

影の立役者とは一体何のことを指すのか?

それは台座です。


今回、毛涯さんに展示をお願いすることの決め手の一つとなったと言ってもいいもの。

それは彼のセンスあふれる自作の台座でした。


台座というのはまったくもってばかにならないもの。

いわば絵に対する額縁のようなもので、額縁がよければ絵をぐっとひきたてることができるように、同じことが台座にも言えるのです。


考古美術品は立体です。

その立体はそのままでは扱いに困ってしまうでしょう。

そこに収まりの良い台座が来ることによって、はじめて我々はその考古品をゆっくり眺めたり、お気に入りの場所において愛でることができるようになるのです。

我々が生きるモダンライフに突然考古品がやってきても、なじませるための一手間がなければ、床に転がしておくわけにはいかないし、結局は箱に入れてしまいこみ、最後には購入したことでさえ忘れてしまう状況に陥らないとは限りません。


でも、どうでしょう?

もしそこに、考古品にぴったり台座があれば?

そう、それなら我々のデスクの上に置くことも可能、窓辺に置くこともできる、などなど急にオプションが無限大に広がるのです。


考古品を買い付けてくる本人が、それに合う台座を作るのですから、良いものができるに決まっています。

台座のついた考古品はますます輝きを増しています。


聞けば、毛涯さんも、最初から台座を自分で作っていたわけではないようです。

骨董業界に台座を作る職人さんは二人ほどしかいないため、お願いしてもいつ注文を受けてくれるかわからない状態だったので、自作を決意して今に至る、とおっしゃっていました。

しかも数を作っていくうちにどんどん進化発展していかれたそうです。


毛涯さんは台座の材料に真鍮を使い、それを自由自在に染めたり、鑞付けしたりしていろいろな「モノ」が収まるすばらしい台座を作っています。

今回の展示でも彼の台座によって、良さが最大限に引き出されている出品物がたくさんあります。


展示に来廊してくださる方は是非、素晴らしい台座にも注目してみてください。


皆様のご来廊を心よりおまちしております。通常とは違い、企画展中はノンストップ、予約不要です。


企画展「線とかたち」

10/30(SAT) – 11/7(日)

11:00-18:00

ギャラリー久我にて